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神戸地方裁判所 平成3年(ワ)1233号 判決 1993年5月25日

原告

黒田いとえ

右訴訟代理人弁護士

間瀬俊道

鈴木尉久

被告

早田裕俊

右訴訟代理人弁護士

道上明

赤木文生

主文

被告は、原告に対し、金一〇、一九五、七八九円及びこれに対す昭和六三年九月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一  申立

一  原告

被告は、原告に対し、金三一、七一一、五三九円及びこれに対する昭和六三年九月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行宣言

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二  主張

一  原告

1  請求原因

(一) 事故の発生

原告は、昭和六三年九月二六日、三田市山田大道ヶ平六〇五番地所在千刈興業株式会社(以下「訴外会社」という。)経営の千刈カントリークラブにおいてキャディとして稼働中、コース七番ホールティーグラウンド(以下「本件現場」という。)において、被告が素振りしたゴルフクラブ(一番ウッドー以下「本件ドライバー」という。)のヘッドに右眼を打撃された(以下「本件事故」という。)。

(二) 過失

(1)イ 財団法人日本ゴルフ協会が制定したゴルフ規則第一章「コースでの礼儀」の冒頭には、「安全の確認」と題して、「プレーヤーは、ストロークや練習スウィングを行なう際には、その前に、クラブが当たるような身近なところや、ストロークや練習スウィングによって球、石、小枝などが飛ばされて当たるおそれのある場所に誰も人がいないことを十分に確認すべきである。」と規定されている。

ロ 一般的に言っても、ゴルフクラブの素振りといった危険な行為を行なう者は、素振りを行なう前に周囲の状況、殊に接近してくる者の有無について十分注意を払い、ゴルフクラブが当たる危険があると認められるときには直ちに素振りを中止し、かかる危険がないことを確認した上で素振りを行なうべき注意義務を負う。

(2) ところが、被告は、同伴プレーヤーがティーグラウンドからボールを打とうと準備し、原告が先行パーティーが打球の届く範囲外にまで進行したかどうかを確認しようとしている段階において、前記ゴルフプレーヤーとして当然遵守すべき大原則を無視し、ティーグラウンドという前記危険な場所に当り、本来素振りなど絶対に行なってはならない時と場所において、素振りの直前に周囲を見回して安全を確認することなく漫然と素振行為をした過失により、すぐそばに立っていた原告に気付かずに、本件ドライバーのヘッドで原告の右眼を打撃し、本件事故を発生させるに至った。

(三) 受傷と治療経過

原告は、本件事故により、右眼球破裂の傷害を受け昭和六三年九月二六日から同年一〇月二四日まで(二九日間)社会保険神戸中央病院に入院して、その間同年一〇月七日右眼球摘出の手術を受け、同月二五日から平成二年八月三一日まで通院(実治療日数三六日)して治療を受けた。

原告は、本件事故により、昭和六三年一〇月三日、反応性うつ病に罹患している。

右眼球の傷害及び反応性うつ病は、ともに平成二年八月三一日に症状固定し、障害等級七級の後遺症が残った。

(四) 損害

(1)イ 治療費 一、四六七、五〇七円

ロ 入院付添費 七二、〇〇〇円

原告は、昭和六三年一〇月三日から同月一八日までの間、付添いが必要な状態であったため、原告の長女が付添いを余儀なくされた。

一六日×四、五〇〇円=七二、〇〇〇円

ハ 入院雑費 三七、七〇〇円

一、三〇〇円×二九日間=三七、七〇〇円

ニ 通院交通費 七九、二〇〇円

原告宅から神戸電鉄三田駅まで、神姫バス代五〇〇円

神戸電鉄三田駅から同北鈴蘭台駅まで、電車賃四七〇円

神戸電鉄北鈴蘭台駅から神戸中央病院まで、市バス代一三〇円

三六日×二、二〇〇円=七九、二〇〇円

(2) 休業損害 五、〇八五、一〇八円

原告は、ゴルフ場でのキャディとして稼働するほか、株式会社中川組で建設工事の後片付け作業に従事したり、株式会社角谷商店で籠編み作業をしたり、農作業をしたりしていたが、基本的には主婦である。

しかし、資料に基づいて算定した収入だけでは、資金センサスの女子労働者の平均賃金にみたないので、平成元年度の賃金センサスの女子労働者の平均賃金年額二、六五三、一〇〇円を基準とする。

受傷後症状固定まで二三か月稼働できなかったから、休業損害は、五、〇八五、一〇八円となる。

二、六五三、一〇〇円÷一二×二三=五、〇八五、一〇八円

(3) 後遺症による逸失利益 一六、三一四、八六七円

労働能力喪失率は五六パーセントであり、労働能力喪失期間は右眼失明が器質的なものであるから就労可能年限である六七歳までであって、原告は、受傷当時五二歳であったから、新ホフマン係数は10.981となる。

2,653,100円×0.56×10.981=16,314,867円

(4) 義眼費用 一六七、七〇〇円

(5) 看護婦謝礼 四六、〇〇〇円

(6) 眼鏡代 四五、〇〇〇円

(7) 洗髪料 五四、〇〇〇円

原告は、眼球摘出後、義眼ができるまでの間は、眼窩に水が入るので一人では洗髪できず、美容院で洗髪せざるを得なかった。

(8) 診断書料 八、〇〇〇円

(9) 入院・通院慰謝料 一一八万円

原告の通院は長期にわたっているため、実通院日数の3.5倍を慰謝料算定のための通院期間の目安として採用し、入院一か月・通院四か月相当として慰謝料を算出すべきである。

(10) 後遺症慰謝料 八五〇万円

原告には、障害等級七級の後遺症が残ったので、その慰謝料としては八五〇万円が相当である。

本件では、次のような事情があるから、交通事故などの場合に比べ、慰謝料額を増額すべきである。

イ 被告は、本件事故後、賠償について、誠意をもった交渉を行わず、原告の苦痛を放置していた。

ロ 被告は、本件事故発生直後原告が死んだように倒れているのを目撃しながら、非常識にも血みどろの本件ドライバーをもってプレーを継続した。

ハ 原告は、現在でも常時右眼に著しい苦痛がある。

ニ 被告は、原告の好意により、重過失傷害罪の告訴及び捜査を免れている。

(11) (1)ないし(10)の合計 三三、〇五七、〇八二円

(12) 損害の填補 四、二二八、四一〇円

イ 労災保険の療養補償給付 一、四六七、五〇七円

ロ 労災保険の休業補償給付 二、一〇五、一〇三円

ハ 労災保険の労災障害補償年金六五五、八〇〇円

(13) (11)から(12)を控除した残額 二八、八二六、六二七円

(14) 弁護士費用 二、八八二、八六七円

(15) (13)と(14)の合計額 三一、七一一、五三九円

よって、原告は、被告に対し、前記不法行為による損害賠償として金三一、七一一、五三九円及びこれに対する右不法行為の日である昭和六三年九月二六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2 抗弁に対する認否

(一)(1) 抗弁(一)の事実は否認する。

(2) 本件事故は、同伴プレーヤーがティーグラウンドからボールを打とうとし、原告が先行パーティーの進行状況を確認するため、ゴルフクラブを杖のようにして打つ方向を眺めていた被告とロープとの間を通り抜け、被告の前方に出た後に発生したものであり、原告が被告の横を通り抜けるまでは、被告は素振りを行なっていなかったのである。

およそゴルフクラブを持って立っている人に近付いてはならないという注意義務があるというなら格別、そのような注意義務が認められるはずがない。

従って、原告には何ら過失はなく、過失相殺はなされるべきではない。

(3) 仮に被告が素振りをしているところに原告が近付いてきたという事実があったとすれば、被告が素振りをしていることに気付かずに近付いてしまったということになる。原告が素振りに気付きながら敢えて被告に近付いて行くようなことはありえないからである。

かかる場合に過失相殺がなされるためには、原告につき、被告が素振りをしているということに気付かなかったという点に過失があったと言わなければならない。

しかし、原告に対して被告の素振りに気付くべき注意義務はないので原告には過失はなく、過失相殺をすべきではない。

(4) 確かにルールとしてはティーグラウンドでの素振りは禁止されているが、現実としては頻繁に行なわれているのが実情であるから、原告も当然被告の素振りに気付くべきであったと主張するかのようである。しかし、それが本当に実情であるかは明白でない上に、仮に実情であったとしても、これは明らかにルールに違反する不当な行為であり、かかる行為の結果責任を他に転嫁することは許されない。

(5) また、仮に原告が被告の素振りを知っていながら敢えて被告の横を通り抜けようとしたという事実があったとしても、過失相殺はなされるべきではない。

なぜなら、前記のように、被告は、本来行なってはならない時と場所で、しかも周囲の状況を顧みることなく傍若無人に素振りを行ない、その結果誤って原告の右眼を打撃して同人に対して右眼球破裂という重大な傷害を負わせるに至ったのであって、かかる被告の過失の重大性と対比すれば、原告のわずかな落ち度をもって損害賠償額算定上斟酌されるべきものではないからである。

(6) 原告は、打撃を受ける前には先行パーティーの進行状況を確認するために立ち止まって前方を注視していたところ、被告は、立ち止まっている原告を打撃しているのである。

被告が、素振りの前に周囲の状況をしっかりと確認すれば、原告がすぐそばに立っていることに気付いたはずである。ところが、被告は、周囲を十分確認することなく、特に後方についてはまったく振り返りもせずに、素振りをしたものである。

素振りの開始から終了までの時間は、一、二秒程度のものであると考えられるが、その短い時間の中で原告が近寄ってきたなどということは、現実にはありえないことである。本件事故は、素振りをする直前に周囲を見回して安全を確認するべきなのに、それをしないで、ごく近くに立っていた原告に気付かないまま、漫然と素振りをした被告の一方的な不注意が原因で起ったものである。

事故が起った以上、原告と被告との距離は、クラブが当たる程度に近接していたことは間違いがない。しかし、そのような接近が、被告が原告に近寄った結果であるか、原告が被告に近寄った結果であるかは、どちらでもよいことであって、このような事情は過失相殺として考慮されるべき事情とは到底言えない。問題とされるべきなのは、被告が、不注意で原告がすぐそばに立っていることを気付かず、素振りをしたという点であり、原告には、被告がそのような行為に及ぶことは予想もつかなかったという点である。

また、仮に予想しえたとしても、原告に予めこれを予想して事前に回避しなければならない注意義務はない。

(7) 以上のとおり、いずれにしても被告の過失相殺を求める主張は失当である。

(二)(1) 抗弁(二)の事実は否認する。

(2)イ 原告は、訴外会社から、見舞金として、①昭和六三年一〇月頃、金一〇〇万円を、②平成三年三月一五日、金五〇〇万円を、③平成三年八月頃、金二一六、三五九円を、それぞれ受領した。

また、右保険金は、平成三年三月四日に支払がなされたものであるところ、前記①の金一〇〇万円の見舞金は、事故直後の昭和六三年一〇月頃、保険金がまだ支払われていない段階で、訴外会社から原告に支払われたものであって、右①の見舞金は保険とは何の関係もない。

ロ 原告は、雇主である訴外会社から、見舞金を受け取ったことはある。しかし、訴外会社がその見舞金をどこからどのような方法で調達したかについては、一切知らない。

ハ そもそも、不法行為に基づく損害賠償の制度は、不法行為によって被害者の受けた損害を加害者に転嫁させることによって、加害者・被害者双方の公平を図ろうとするものである。

ところで、労働災害総合保険は、労災保険と異なり、事業者が任意で加入する制度であって、被保険者の保険料の支払いを受けて、約款所定の事由が発生した場合に保険金が支払われるという仕組みになっている。

これは、不法行為によって生じた被害者の損害を加害者に転嫁させ、もって両者の公正を実現するという損害賠償制度とは明らかにその性質を異にするものである。

ニ 日新火災海上保険株式会社(以下「日新火災」という。)の労働災害総合保険(以下「総合保険」という。)は、従業員の福利厚生を目的として、訴外会社が被保険者となって締結された保険であり、原告のあずかり知らぬところで締結されたものである。

代位の規定の存在は、「被保険者」が、第三者からの賠償金と保険金との二重取りをすることは認めないという契約当事者の意思を推認させる。

しかし、総合保険における「被保険者」は、訴外会社であって、右約款における代位の規定も、訴外会社が第三者に対して損害賠償請求しうる場合に、訴外会社が右賠償金と保険金とを二重取りすることは許さないとしているにすぎない。右代位の規定は、訴外会社の地位につき定めたものであっても、何ら原告の地位につき定めた規定ではないのである。

かえって、右約款には、被用者についての代位の規定がまったく設けられていないことに注意するべきである。被用者についての代位の規定が存在しないのは、総合保険が、被用者の損害の填補を目的としていないからである。

ホ 原告は、総合保険約款の第二条の規定に基づき、雇主である訴外会社から、法定外補償保険金相当額を見舞金として受領したにすぎない。この「法定外補償保険金」は、その名称からも明らかなように、損害の填補を目的とするものではない。同保険約款の第一条からわかるとおり、保険会社は、労災保険給付の決定があれば、損害の多少にかかわらず、自動的に雇主に対して一定額を支払うこととなるのである。

そして、雇主である訴外会社は、その就業規則等の内規に基づき、被用者たる原告に対し、見舞金を支払ったにすぎない。

原告は、現に訴外会社から金員を渡されるに際し、これは見舞金であって損害賠償ではない旨の説明を受けている。

訴外会社は、従業員の福利厚生を充実させる目的で総合保険に加入したものであって、わざわざ加害者たる第三者に損害填補の利益を与えてやるために保険料を支払ってきたわけではない。

このように、原告は、訴外会社から、内規に基づく見舞金を受領したが、右見舞金は損益相殺の対象とはならない。

ヘ 訴外会社から原告に対して支払われた金六、二一六、三五九円は、訴外会社の原告に対する労働契約上の義務に基づき支払われたものではない。このことは、訴外会社に労働災害補償規定が存在していないことから明らかである。

原告は、この訴外会社の義務なき金員の支払の法的性質につき、訴外会社から原告に対する贈与(見舞金)であると主張する。

ところが、被告は、右義務なき金員の支払をもって、原告の損害の損補とみなすべきだと主張する。被告の主張によれば、訴外会社は、被告が原告に対して負担している損害賠償債務につき、被告に代わって第三者弁済を行なったのと同一の結果となる。

しかし、訴外会社が被告の損害賠償債務を第三者弁済する理由など存在していない。訴外会社と被告との間には、何らの法律関係もない。

ト また、本件において、原告に対して支払われたのは、「保険金」そのものではない。原告は、訴外会社から「現金」六、二一六、三五九円の支払を受けたというにとどまる。訴外会社がその「現金」をどのように調達したかについては、原告の知るところではない。

被告は、あたかも原告が填補賠償としての「保険金」を受け取ったかのごとく総合保険を問題としているが、原告は訴外会社から現金の贈与を受けたにすぎない。

チ 法定外補償保険は、被保険者である事業主がその被用者の業務上の身体障害につき、政府労災保険等の法定給付の上乗せ補償(法定外補償)を行なうことによって被る損害を填補するものである。

ここで肝要なのは、①法定外補償保険は、「事業者の損害」を填補する保険であること、②その「事業者の損害」とは、被用者に対して上乗せ補償を支払ったことによって生じた損害を意味することである。

ひらたく言えば、法定外補償保険は、事業者が被用者に対して見舞金を支払った場合、事業者としてみれば見舞金相当額の損害を被ったことになるので、その損害を保険によって補おうとするものなのである。

法定外補償保険は、被用者の損害を填補するための保険ではない。ましてや、第三者加害行為の場合に加害者の損害賠償債務を減額してやるための保険ではない。

リ 以上のとおり、原告が訴外会社から金銭を受領したことは、原告の被告に対する本件損害賠償請求とは全く関係のないことであるから、その受領額を賠償請求額から控除(損益相殺)するという被告の主張は、明らかに失当である。

二  被告

1  請求原因に対する認否

(一) 請求原因(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実は否認する。

(三) 同(三)の事実は知らない。

(四)(1) 同(四)(1)の事実は否認する。

(2)イ 同(四)(2)の事実は否認する。

ロ 原告は、平均賃金を主張するけれども、実損填補という不法行為の理論から、現実の収入額を基礎とすべきであり、平均賃金を採用することはできない。

ハ 原告の収入は、次のとおり月額一五二、八九八円となる。

(イ) キャディ分

昭和六二年一月分から昭和六三年九月分の合計(七九八、六五〇円+五二〇、九五〇円=一、三一九、六〇〇円)の二一か月平均額六二、八三八円

(ロ) 株式会社角谷商店分

昭和六二年一〇月分から昭和六三年九月分までの合計一二三、三〇〇円の一二か月平均額一〇、二七五円

(ハ) 株式会社中川組分

昭和六二年九月分から昭和六三年九月分までの合計一、〇三七、二〇〇円の一三か月平均額七九、七八五円

(ニ) (イ)ないし(ハ)の合計額

一五二、八九八円

(3)イ 同(四)(3)の事実は否認する。

ロ 原告は、就労可能年限を六七歳までと主張するけれども、原告の仕事の内容・程度からみると、右年令まで就労できるとは考えられない。

原告の症状固定は五四歳であるから、就労可能年数は六年程度である。

ハ 原告は、労災保険から障害補償年金を受給しており、これは将来も継続的に支給される。

将来の年金について損益相殺ができないとしても、年金受給という事実が確実に予想される以上、逸失利益の労働能力喪失率を通常より低くみることによって調整すべきである。

(4) 請求原因(4)ないし(11)の各事実は否認する。

(5) 同(12)の事実は認める。

(6) 同(13)ないし(15)の各事実は否認する。

2  抗弁

(一) 過失相殺

ティーグラウンド上での素振り行為がマナーに反しているかどうかはともかくとして、実際上多くの客がこれを行なっている。

そして、被告は、一番ホールから六番ホールまでこれを行なってきた。

被告は、本件現場において、本件ドライバーのグリップを持ち変えたり、手首を返すようにクラブを動かしたり、素振りを何回かしていた。

このときに、原告は、被告の方に走り寄ってきたもので、これは極めて危険な行動である。原告が被告の右行動を見て走り寄ったのであればなおさらのこと、仮に素振りを見ないで走り寄ったとしても、クラブを持ってティーグラウンド上に佇立している客を見ればその客が素振り行為に出ることは十分予見できるから、そこへ走り寄るのは極めて危険であり、原告としてはこれを避けなければならない。原告は、キャディとして、ゴルフ場内における人身事故の発生を未然に防止すべき重い注意義務を負っているにもかかわらず、これを怠り、被告の前記行動を無視ないし看過して漫然と被告の方に走り寄った過失によって本件事故を招来したものであり、原告の過失割合は約七割が相当である。

(二) 損害の填補

原告は、次の(1)ないし(3)の金員を損害の填補として受領した。

(1) 労災保険の療養費用 八、〇〇〇円

(2) 同保険の労災障害補償年金追加分 一、九三二、二八三円

(3) 日新火災の総合保険に基づく給付金 六、七〇八、九〇一円

(4) 右(3)の給付金を損益相殺として控除すべき理由は次のとおりである。

すなわち、右給付金は、日新火災から訴外会社に支払われ、訴外会社から原告に対し、見舞金としてではなく、損害填補として支払われている。

右総合保険は、被保険者訴外会社に被用者(原告)の身体障害により支払われるものであるが、保険約款第三章第二四条により日新火災は、第三者(被告)に求償することができるし、また商法の保険代位の規定により当然代位することができる。総合保険は、原告の受傷という保険事故により支払われる損害保険の一種であって、保険事故が第三者の不法行為によって発生した場合には、商法により代位するものだからである。

結局、被告は、日新火災に対し求償債務を負担しているから、右給付金を損益相殺しなければ、被告は、二重払を余儀なくされる。

総合保険契約に基づく保険金は、約款第一章第二条により、一旦被保険者訴外会社に支払われ、その全額を原告に支払うべきものであって、本件においてもそのように取扱われた。

本件のような場合には、日新火災の被告に対する求償債権が発生すれば、それだけで損益相殺すべきであり、現実に日新火災が被告に求償するか、右求償債権につき消滅時効が完成しているか、また被告がこれを援用したかどうかは、右結論を左右するものではない。

また、訴外会社は、従業員たる原告に対する労働契約上の安全配慮義務を負っており、本件事故の発生によって債務不履行責任として原告に対する損害賠償債務が発生し、被告とは原告に対し不真正連帯債務を負う。従って、訴外会社が損害賠償債務の履行をすれば、被告に求償することができる。

仮に訴外会社に損害賠償債務が発生しないとしても、雇用主として第三者の弁済をしたことになり、第三者の弁済とすると当然に損害賠償義務者である被告に求償可能である。

よって、原告の本訴請求は失当である。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因(一)の事実は、当事者間に争いがない。

二1  <書証番号略>と弁論の全趣旨によれば、請求原因(二)(1)イの事実が認められる。

2  右1の事実に経験則を併せ考えると、同(二)(1)ロの事実が認められる。

3  <書証番号略>と原告供述によれば、訴外会社は、本件コースの一番ホールティーグラウンド上のプレーヤーの見易い場所に「ご注意 スタート待機中ティーグラウンド及びその周辺で素振り練習危険につき禁止します」と記載した立て看板を設置して、プレーヤーに対し、ティーグラウンド上における素振り練習の危険性を警告してその禁止をしていることが認められる。

4  <書証番号略>と証人鴨田伸人の証言(以下「鴨田証言」という。―一部)、原告供述(一部)、被告供述(一部)及び弁論の全趣旨によれば本件事故当日は、月曜日でゴルフ場の休日に当り、美容組合がゴルフコンペのためにコースを借切り、各ホールのティーグラウンド毎に少し待つ程度の進行具合であった。被告は、美容組合の知人の誘いでコンペに参加し、鴨田、佐藤、木崎と四人のパーティーで一番ホールから六番ホールまでいずれもティーグラウンド上で待ち時間中にクラブの素振り練習をしていた。そして、被告らが七番ホールに着いた際には、オナーが鴨田であったが、前のパーティーがつかえていたところから、四人がそれぞれドライバーを手にし、鴨田がティーアップした段階で暫く待機することとなった。七番ホールは、急な打ちおろしのパー五のホールであり、原告はバックティーに立っていて先行パーティーの進行具合を見ていた。当時、七番ホールのティーグラウンドは、向って右側半分が使用されていて、左側半分とは、低いロープで仕切られており、バックティーはこれらの後方に隣接し、小高くなっていた。被告は、昭和三七年八月生れ当時二五歳の若い会社員で、プライベートハンディは一六であったが本件コースは始めてであった。原告は、昭和一一年八月生れ当時五二歳のキャディで、昭和四三年七月から本件コースのキャディを勤めているベテランである。ゴルフではオナーの先打権が認められており、マナーとしてオナーのティーアップ後は、同伴プレーヤーとしてはティーグラウンド上での練習行為を本来遠慮すべきであり、このことはハンディ一六の被告としても当然了解しているところであった。ところが、被告は、練習をしたい一心から右マナーに反して素振り練習をしようと考え、前記ロープの中程の右側でロープを背にして約一メートル離れた位置に本件ドライバーを手にして立ち、グリップを持ちかえたり、握ったままで手首を返えしてみたりしたのち、一、二回本件ドライバーを素振りした。被告が最後に本件ドライバーを振り切った際、丁度そこへ来合わせた原告の右眼に右ドライバーのヘッドを衝突させて本件事故を発生させた。被告は、右二、三回の素振りを開始する直前には、約三メートル後方のバックティーとの境目あたりに立っているのを見ており、同伴プレーヤー三名は、被告の前方約三メートルに並んで立っているのを見ていた。しかし、被告は、本件ドライバーで素振りを行なう度毎には周囲に人がいないがどうかの安全確認をしなかった。以上の各事実が認められ、鴨田証言、原告供述、被告供述中右認定に反する部分は前掲各証拠と対比して採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

5 右1ないし3の各認定事実によれば、プレーヤーは、素振り、すなわち練習スウィングを行なう際にはその前にクラブが当るような身近なところに誰も人がいないことを十分に確認すべき注意義務があるというべきところ、ティーグラウンドは、キャディや同伴プレーヤーの立入る場所であるところから、ゴルフ場経営者(訴外会社)もそこでのプレーヤーの素振り練習を禁止する立看板を設置して右注意義務を喚起している。

右4の認定事実によれば、被告は、素振りを開始する直前の時点において、約三メートル離れた場所にキャディ(原告)と同伴プレーヤー三名の姿を見ていることが明らかであり、キャディがティーグラウンド周辺においてプレーヤーのため各種の世話や指図等をするために動き回ることや、プレーヤーもティーショットのためにティーグラウンド周辺を動き回ることがあることを十分予見していたことが明らかである。

6 そうすると、被告は、自己が素振りをする本件ドライバーのヘッドが届く範囲内に第三者が近付く可能性を予見し、あるいは予見しえた筈であるから、直ちに素振り練習を断念すべきであった。

ところが、被告は、右注意義務を怠り、素振り練習を中止せず、かつ十分に周囲の安全を確認しないまま、漫然安全であると軽信して素振り行為を行なった過失により、本件事故を発生させたということができる。

三<書証番号略>と原告供述によれば、請求原因(三)の事実が認められる。

四前記一ないし三の各認定事実によれば、被告は、原告に対し、民法七〇九条所定の不法行為責任を負うことが明らかであるから、原告が本件事故によって被った損害を賠償すべき義務を負うといわなければならない。

五1  <書証番号略>によれば、原告は、治療費一、四六七、五〇七円を支払ったことが認められる。

2 前記三の認定事実によれば、原告は、昭和六三年九月二六日から同年一〇月二四日まで入院したことが明らかである。

そして、<書証番号略>によれば、原告は、その間同月三日から同月一八日まで一六日間付添いが必要な状態であったため原告の長女の付添をして貰ったことが認められる。弁論の全趣旨によれば、近親者の付添費については、一日当り四、五〇〇円をもって本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

そうすると、付添費総額は、七二、〇〇〇円となる。

3  原告の入院期間は、前記認定のとおり二九日であるが、弁論の全趣旨によれば、入院雑費については、一日当り一、二〇〇円をもって本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

そうすると、入院雑費総額は、三四、八〇〇円となる。

4 前記三の認定事実によれば、原告は、実通院日数が三六日であったことが明らかである。

弁論の全趣旨によれば、原告主張のとおり、原告は、一日当り二、二〇〇円の通院交通費を支払ったことが認められる。

そうすると、通院交通費総額は、七九、二〇〇円となる。

5(一) <書証番号略>と原告供述によれば、原告は、本件事故前においては、昭和四三年七月から訴外会社のキャディをするほか、株式会社中川組で建設工事の後片付け作業に従事したり、株式会社角谷商店で籠編み作業に従事したり、主婦として家事や農作業に従事していたが、本件事故発生から前記三認定の症状固定の平成二年八月三一日までの間、全く労働に従事することが不可能であったこと、原告は、昭和六二年一月から昭和六三年九月までの二一か月間にキャディ収入合計一、四四八、五三〇円(平均月額六八、九七七円)を得、昭和六二年一〇月から昭和六三年九月までの一二か月間に角谷商店からの労働収入合計一二三、三〇〇円(平均月額一〇、二七五円)を得、昭和六二年九月から昭和六三年九月までの一三か月間に中川組からの労働収入合計一、〇三七、二〇〇円(平均月額七九、七八四円)を得たことが認められる。

そして、右平均月額の合計は、一五九、〇三六円となるので、その年額は、一、九〇八、四三二円となる。

(二)  ところで、「賃金センサス」平成元年第一巻第一表(全国性別・学歴別・年令階級別平均給与額表)の女子労働者の産業計・企業規模計の五〇ないし五四歳の年間給与額は、金二、六九三、四〇〇円となる。

(三)  そうすると、右(一)の実額年収は、右(二)の平均年収を下回ることになるので、実質上主婦と認められる原告については、右(二)の平均年収を基準として休業損害を算定するのが相当であり、これに反する被告の主張は採用することができない。

(四)  従って、原告の休業損害は、次式のとおり、金五、一六二、三五〇円となる。

2,693,400÷12×23=5,162,350

(五)  原告は、そのうち五、〇八五、一〇八円の限度で請求しているから、同額を休業損害と認める。

6(一)  <書証番号略>によれば、原告は、障害等級第七級二〇号の後遺症が残ったことが認められるので、その「労働能力喪失率表」による労働能力喪失率は五六パーセントと定められていることが明らかであるから、原告の労働能力喪失率を五六パーセントと認めるのが相当である。

(二)  被告は、この点に関して、原告が労災保険から障害補償年金を受給しており、これは将来も継続的に支給される、従って、将来の年金について損益相殺ができないとしても、年金受給という事実が確実に予想される以上、逸失利益の労働能力喪失率を通常より低くみることによって調整すべきである旨主張するけれども、右主張を認めるべき合理性はないから、この点に関する被告の主張は失当である。

(三)  また、主婦の就労可能年数の上限は六七歳であると認めるのが相当であるから、原告の就労可能年数は、六七歳から五四歳を控除した一三年となる。

(四)  従って、その新ホフマン係数は、9.821となる。

(五)  そうすると原告の後遺症による逸失利益は、次式のとおり金一四、八一三、〇五三円となる。

2,693,400×0.56×9.821=14,813,053

7  <書証番号略>と同供述によれば、請求原因(四)(4)の事実が認められる。

8  <書証番号略>と同供述によれば、請求原因(5)の事実が認められる。

9  <書証番号略>と同供述によれば、請求原因(6)の事実が認められる。

10  <書証番号略>と同供述によれば、請求原因(四)(7)の事実が認められる。

11  <書証番号略>によれば、請求原因(四)(8)の事実が認められる。

12  右1ないし11の財産的損害を合計すると、金二一、八七二、三六八円となる。

13 原告は、前記三認定のとおり二九日間入院し、二二か月間通院(実治療日数三六日)している。

そこで、原告の傷害の部位・程度、入通院の期間等本件にあらわれた諸般の事情を斟酌すると、原告の入院通院慰謝料は、一〇〇万円をもって相当と認める。

14  原告には、前記6認定のように、障害等級七級の後遺症が残ったので、その障害の程度・内容その他本件にあらわれた諸般の事情を斟酌すると、その後遺症慰謝料は、金七六〇万円をもって相当と認める。

15  右13、14の精神的損害を合計すると、金八六〇万円となる。

16  そして、前記12と15の各損害を総計すると全損害は、金三〇、四七二、三六八円となる。

六そこで、被告主張の過失相殺の抗弁について検討する。

1  <書証番号略>によれば、キャディは、業務安全規定で、プレーヤーに気を配り事故防止に務めるべき注意義務を課せられていることが認められる。

また、前記二3の認定事実によれば、キャディは、スタート待機中ティーグラウンド及びその周辺で素振り練習をするプレーヤーがいる場合には、これを中止させるべき注意義務を負っていることが推認される。

2  鴨田証言と被告供述によれば、ゴルフコースではプレーヤーがティーグラウンド上において素振り練習をすることが実際上多く、現に被告や同伴プレーヤーも当日一番ホールから六番ホールまでティーグラウンド上で素振り練習をしたこと、しかし原告から特にその中止を求める指図を受けなかったことが認められ、原告供述中右認定に反する部分は前掲各証拠と対比して採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  ところで、右2認定のとおり、多くのゴルフコースでは、客に対するサービスという営業上の目的からキャディに対し前記1後段の注意義務の実行を余り期待していないのが実状であり、従って本件コースでも同様であると推認できるので、キャディたる原告が右2認定のように一番ないし六番ホールのティーグラウンド上で素振り練習するのを一般的に阻止しなかったとしても期待可能性を欠き、これをもって過失相殺にいわゆる被害者の過失とまでみるのは相当ではない。

4  被告は、本件現場において本件グリップを持ち変えたり、手首を返すようにクラブを動かしたり、本件ドライバーで何回か素振りをしていたところ、原告がこれを見ながら敢えて被告の方に走り寄って来たから原告にも過失がある旨主張するけれども、本件においては原告が被告の右行為を見たうえで被告の方に接近した事実を認めるに足りる証拠はないから、被告の右主張は、その前提を欠き失当である。

5  そうすると、本件事故が発生した以上、原告は、被告が素振り行為をしているのを見ないで被告の方に接近したものといわざるを得ない。

6 前記二4の認定事実と右5の認定事実を併せ考えると、原告は、本件現場では、被告から約三メートル後方のバックティーとの境目あたりの位置にいた際、被告が(本件フロント)ティーグラウンド上で本件ドライバーを持って佇立している(未だ素振りに入る直前)のを見ていたこと、鴨田がオナーですでにティーアップしたあとであり、かつ被告がオナーではないことを認識していたことが推認できる。

7  そうすると、原告には、オナーのティーアップ後における同伴プレーヤーである被告のティーグラウンド上における素振り練習を中止させるべき具体的な注意義務があり、かつドライバーを手にしてティーグラウンド上に佇立し、グリップを持ち変えたり、手首を返すようにクラブを動かしたりしているのを見た以上、引き続きプレーヤー(被告)が素振り練習に移行する可能性が十分予見しえた筈であるから、不用意に被告に接近してはならない具体的な注意義務があるといわなければならない。

8  <書証番号略>と鴨田証言(一部)、原告供述(一部)、被告供述(一部)によれば、七番ホールがティーグラウンドから急に打ちおろしになっていた、先行パーティーの動静を確認してオナーにティーショット開始許容の合図を出すためには、どうしてもティーグラウンド前方の先端まで出て前方の安全を確認する必要がある。そこで、原告は、前記6認定の境目の位置から前記ロープに沿ってその右側を前方に進み被告の後方を通りティーグラウンドの先端に出ようと考え、前方へ進み、被告のほぼうしろに達した際に本件事故が発生したことが認められ、鴨田証言、原告供述、被告供述中右認定に反する部分は前掲各証拠と対比して採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

9  右6、8の各認定事実を併せ考えると、原告は、被告が素振り練習に移ることはないと軽信し、先行パーティー動静の確認を急ぐ余り、被告の周辺を避けてティーグラウンドの両側端に近いところを通ることは極めて容易であるにもかかわらずそこを通ろうとせず、最短距離である被告のすぐ後方を通過する通路をとった過失がある。

10 そこで、前記二認定のような被告の過失と右9認定のような原告の過失の態様・程度その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、損害額算定につき斟酌すべき原告の過失割合は三割とするのが相当である。

11 そうすると、原告が被告に対して請求しうる金額は、前記五16認定の三〇、四七二、三六八円の七割に相当する金二一、三三〇、六五七円となる。

七次に被告主張の損益相殺の抗弁について検討する。

1  請求原因(四)(12)の事実は、当事者間に争いがない。

2 そうすると、右六11認定の損害額から右1の損害填補四、二二八、四一〇円を控除すると、残額は、金一七、一〇二、二四七円となる。

3  <書証番号略>によれば、原告は、労災保険から療養費用(診断書料)八、〇〇〇円の支払を受けたことが認められる。

4  <書証番号略>によれば、原告は、その後労災保険から前記1認定の受給ずみ労災障害補償年金六五五、八〇〇円以外に一、五八二、〇九九円の支払を受けたことが認められる。

被告は、それ以外にさらに原告が労災保険から三五〇、一八四円の支払を受けた旨主張するけれども、これを認めるに足りる証拠はない。

5  そこで、右2の残額から右3認定の八、〇〇〇円、右4認定の一、五八二、〇九九円を控除すると、損害残額は、金一五、五一二、一四八円となる。

6  なお、原告は、雇主である訴外会社から見舞金の支払を受けたことはあるが、この見舞金の支払は本件損害賠償請求とは無関係であるから、損益相殺すべきではない旨主張する。

しかし、労働者が雇主に対して労働契約に基づく債権を有し、その債務の履行として業務上災害を理由に財産上の給付を受けた場合には、実質上労働者が不法行為によって被った損害の填補がなされたことになるから、右給付を損益相殺の対象とすべきである。

7 原告は、前記五5認定のとおり訴外会社に雇用され二〇年以上にわたり本件コースでキャディの仕事に従事していたから、訴外会社は、原告に対し、雇用契約関係の附随義務として信義則上安全配慮義務を負うというべきところ、本件事故は業務上の災害に該当するから、原告は、被告に対し、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権を取得したことを推認することができる。

8  <書証番号略>と弁論の全趣旨によれば、訴外会社は、予て日新火災との間に、自己を被保険者とし、被用者が業務上の事由により身体の障害を被ったときの法定外補償保険金の給付を目的とする総合保険を締結しており、本件事故の発生により日新火災から保険金の支払を受け、原告に対し、労災保険金請求手続中に一〇〇万円、平成三年三月一五日に五〇〇万円、同年八月一五日に二一六、三五九円を支払ったことが認められる。その合計額は、六、二一六、三五九円となる。

9  原告は、これが見舞金である旨主張するが、失当である。

10  そうすると、右8認定の受給額六、二一六、三五九円は、前示6、7の法理に照らし、これを損益相殺の対象とすべきである。

11  そこで、前記5の残額から右8の受給額を控除すると、損害残額は、金九、二九五、七八九円となる。

八1  原告が本件訴訟の提起及び追行を原告訴訟代理人弁護士らに委任していることは、本件記録上明らかである。

2  そこで、本件事案の難易、請求額認容額、審理の経過その他本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、本件不法行為と相当因果関係のある損害として請求しうる弁護士費用の額は、金九〇万円であるとするのが相当である。

九そこで、前記七11の損害残額と右八2の弁護士費用を合計すると、金一〇、一九五、七八九円となる。

一〇以上の次第であるから、原告の本訴請求は、被告に対し、前記不法行為に基づく損害賠償として、金一〇、一九五、七八九円およびこれに対する不法行為の日である昭和六三年九月二六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官辰巳和男)

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